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わいわい通信

2013年10月01日

山田博文著『国債がわかる本』を読んで

山田博文著『国債がわかる本』を読んで
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 学習会での花山君の報告(9月号に掲載)に 株価は「5月23日…前日比1143円の大暴落となった。下げ幅では歴代11位の記録であり、2000年4月17日以来の記録である。」「5月22日の…バーナンキ議長証言は伏線にあったが…[国債が売られ]長期金利が1%となって一気に失速した。」とあり 国債についても知っておかなければ経済動向はつかめないと思い本屋に行った。
 群馬大学教授の山田博文著『国債がわかる本―政府保証の金融ビジネスと債務危機』(13.5.31発行 大月書店 1500円)を手にとり エッ本当!と驚きました。冒頭に「年間の売上高が『兆』の単位を超え、1『京』円の活況にわきあがる市場がある。それは、政府の発行する国債を売買する市場である。」と書かれていたからです。1000兆円の国債に対し なんと1『京』円の売買があるのです。すべての国債が売買されているとみると 年5回売買されたことになります。花山報告に 投資部門別の株式保有状況(12年度 上場分)の合計は378兆円で 13年6月の投資部門別株式売買額(東証第一部)は92兆6千億円とあるので 株式の年間売買額は 12倍すると1111兆円となり、それに他の証券取引所の分も含めると1400~1500兆円と推測され 同様にみると株式は年2回の売買となります。なんと国債は 毎日目まぐるしく売買されている株式の2.5倍のスピードで売買されていることになります。
 これまで国債については 金利が3~4%になって、利払い額が税収を上回った時には国家・政府は破産すると 量的にのみ考えていました。
 私と同じように 国債についてほとんど関心を持ってこられなかった方にとっては 非常に分かりやすい本と思うので 抜粋的に紹介します。大月書店から出版されていることから言えば 著者はマルクス経済学の洞察も深いと思われ それがわかりやすくしているのかなと思います。
 
 著者によれば(はじめにより) 「国債は、政府(納税者・国民)にとっては償還義務を負う債務証書であるが、民間の金融機関・投資家にとっては、政府によって保証された、その国を代表する金融商品にほかならない。」「天文学的規模の国債売買市場から、数千億円の売買差益を得るごく少数の巨大金融機関もある。巨額のマネーを動かす金融機関や内外の大口投資家にとって、国債売買市場は、長期化する不況と先行き不透明な時代に、確実に大口の利益をもたらす市場になっている。」「各国の財政危機と国債増発のピンチは、巨大な金融機関・投資家にとって、むしろ政府保証の金融ビジネスのチャンスを創り出してきた。」「わたしたち国民は、一人あたりほぼ1000万円の公的な債務をかかえる『一億総債務者』になり、消費税や所得税などを納税することによって、政府の債権者たちの金融ビジネスを支えている。」ということです。

 第1章:国債ビジネスと政府債務危機
 「国債の発行は、一面では、政府のもとに債務を累積させ、国民に重税を強要することになるが、他面では、余裕資金の安全な運用を意図する内外の金融機関・投資家に対しては、投資の対象となる格付の高い金融商品を提供する。」
 「国債の投資家は、いったん買った国債を最終的な満期償還日まで保有しつづけることはあまりなく、途中、売却して、現金化したり、買値よりも高く売れれば、売買差益を得ることができる。」
 「国債の発行が新たなビジネス・チャンスを提供し、実体経済が低迷しているにもかかわらず、国債ビジネスを通じて金融機関・投資家は、莫大な利益を獲得してきたことである。『国債が玉不足になることは、金融機関にとって、引受手数料、ディーリング益、クーポン(表面利率)収入が減るという点で、まさにトリプル・パンチなんです』。これは…大手銀行幹部の言葉である。」
 「銀行の国債ディーリングは、国債売買市場の主役であり、銀行自身も、国債ディーリングによって、営業利益の20%前後を稼ぎだしている。」
 「2007年度の国債売買高は、1京2323兆円に達した。国債売買市場は、他に例のない超巨大金融市場であり、内外のマネーが一瞬の価格変動をねらって超短期の売買を繰り返すマネーゲームと投機の大舞台となっている。」
 「どうしてこのような超金融緩和策が発動されたのか、その真のねらいは、以下の2点にあろう。第一に、バブル崩壊後、不良債権を大量に抱えこみ、経営困難に陥った民間銀行の救済である。… 民間銀行にとって、日銀から安定した国債売買差益を受け取ることができ、日銀から一種の補助金をもらうようなものである。… 第二に、国債大量発行の基盤整備である。… 日銀買いオペに支持された民間銀行は、…国債の大量の買い手となった。銀行が国債を買い支えてくれるので、政府は、増発される国債の消化基盤をもったことになる。… それはまた、累積国債に抱えられた『政府債務大国』を誕生させた。」
 
 第2章:現代資本主義と国債市場
 国債を考える場合 政府の財政(財源)という面だけでなく 金融資本の儲け口、それも投機によるという面をみなければダメだということです。
 実体経済の規模と金融経済の規模を「2010年現在で比較すると、世界のGDPの合計額はほぼ62兆ドルであったが、世界の金融資産の合計額はほぼ212兆ドルである。… 世界の貿易高はほぼ23兆ドルだが、外国為替の取引高はほぼ1845兆ドルに達し、貿易高の80倍、世界のGDP合計額の30倍にも及んでいる。」
 「日本の外貨準備高1兆2588億ドル(2013年 2月末)の93%にあたる1兆1694億ドルがアメリカ国債で保有されている。日本円に換算すると、ほぼ100兆円という大金が、アメリカ国債に投資され、アメリカ財政の赤字をまかなっている。」
 「日本国債の場合、海外投資家の保有比率は9.1%(86兆円)にすぎず、… 最大の保有者は、ゆうちょ銀行、民間銀行などの預金取扱金融機関(42.4% 402兆円)である。」
 「預金取扱金融機関・保険会社・その他の金融会社・年金基金は、国債発行残高の71.7%を保有し、毎年政府から国債の利子所得と償還金などを受け取っているが、国債費はほぼ22兆円に達するので、その71.7%にあたる15兆7000億円を受け取っていることになる。」
 「日本銀行の国債保有割合は、11.1%(105兆円)に達している。… 日銀の長期国債保有については、日銀券の発行残高の範囲内(83兆円)とする銀行券ルールが設けられていたが、すでに上回っている。さらに、日本銀行は2013年4月4日の金融政策決定会合において、この『銀行券ルール』を解除し、国債の購入量の制限をはずしてしまった。」
 通貨の安定のために必要だからと自分たちが決めたルールを、自分たちで破らざるをえないとは 危機(破局)はそこまで来ていると思います。
 「国内最大の銀行・三菱UFJでは、2012年3月期決算の業務純益は1兆1710億円に達したが、そのうち2651億円(22.6%)が国債売買差益であった。… 政府の発行する国債が近年の銀行の利益の主要な源泉になっている。」
 「1990年に入っての株式バブルの崩壊で、株式市場が急速に冷え込んでいくなかでも、国債市場は、基本的には活況をつづけ、2007年度には1京2323兆円、2008年度では1京360兆円と、… 2008年のリーマン・ショック後には、一時的に売買高が2割ほど落ち込んだが、2012年度にいたって売買高は回復し、8417兆円を記録している。こうして国債市場は、バブル経済の崩壊後、金融・証券市場がフリーズ状態になるなかにあっても、金融機関・投資家に巨額の売買差益を提供し続けてきた。」
 「銀行の債権ディーラーは、潤沢な資金をもつ最大の国債投資家であり、一日のうちに何十回となく売買を繰り返す超短期の回転売買によって、国債の売買差益を追求する。…現代日本の国債売買市場は、銀行による国債投機の市場になっている、といってよい。」
 「長期金利の水準が1%を下回るような事態は、歴史的にも例がなく、これまでの最低水準は、1619年にイタリアで記録された1.125%が史上最低であった。日本の国債利回りがはじめて1%を割り込んだのは、1998年10月であり、0.84%(価格は104円)を記録した。その後、国債利回りがたびたび1%を割り込む史上最低水準を更新しつづけているわが国は、歴史的にも未体験ゾーンの国債バブル市場を抱えつづけていることを意味する。」
 「深刻化する財政赤字と累積する政府債務は、金融機関や国債の大口投資家にとって、国債価格の暴落と金利上昇によって巨額の損失と経営危機をもたらしかねず、場合によっては債務不履行のリスクに逢着する。そこで、各国の財政金融当局は、政府の債権者となった金融機関の経営危機を回避するために公的資金によって資本を増強する一方、各国中央銀行は、超金融緩和政策によって国債価格を支持し、また各国政府は、消費税などの増税によって歳入増をはかり、国債の償還財源を充実させ、国債担保を強化するなどの財政金融政策を発動する。こうした政策は、本来、…金融機関と大口投資家の抱えこんだ危機を、政府の債務危機に転嫁し、主権者である国民の負担によって解消しようとする政策にほかならない。」

 第3章:動員される日銀信用と国民の貯蓄
 「1990年以降、株式バブルの崩壊と長期経済不況の深刻化をきっかけにして、戦時下に匹敵するほどの国債の増発期を迎える。… 雪だるま式に膨張す国債発行高と累増する国債残高の前に、絶えず価格暴落・金利暴騰のリスクにさらされ、国債市場を起点にした金融市場の混乱や経済危機の懸念を抱え込むことになった。」
 「量的金融緩和政策の柱は、日銀当座預金[金融機関の日銀口座への預金]の残高目標を、通常の残高(法定準備預金額の4兆円)よりも高めに設定することにおかれている。量的金融緩和政策に踏み出した2001年3月…まず5兆円に設定され、その後、繰り返し高め高めに更新され、2003年10月には、27~35兆円程度にまで引き上げられた。… 黒田新総裁の就任後初の金融政策決定会合において、『異次元の金融緩和策』の導入を決定した。その特徴は、日銀が毎月7兆円ほどの国債を金融機関から購入するやり方で、今後2年間で資金供給量を2倍に増額し、2014年末までに金融機関の日銀当座預金の残高目標を過去最大の270兆円まで増やす、というものであった。」
 「量的金融緩和・日銀当座預金残高の吊り上げ策によって日銀から民間銀行に供給される巨額のマネーは、超低金利下の安全有利な投資物件になっている国債に向かい、政府の財政資金となって還流していき、日銀→民間銀行→政府の内部で循環している。その結果、経済不況は回復せず、国債市場だけがバブル市場化し、膨張を遂げている。」
 「国債価格は、景気対策にともなう国債の大量発行や公定歩合の引き上げ、その他突発的な経済的事件などによっても暴落する。… 近年のように、歴史的にもまれな超低金利時代にあって、もはやこれ以上下げられないほど低水準にある公定歩合(0.1%)や国債金利のもとでは、国債価格暴落(長期金利暴騰)によって誘発される経済的な撹乱は、予測できないような事態を招くリスクを秘めている、といえよう。」
 いま一番ありうるのは ヘッジファンドによる日本国債の投げ売りで国債価格が下がる(金利は上昇)と考えられますが 書かれていません。おそらく「その他突発的な経済的事件」に含めているのだと思います。

 第4章:グローバル化する政府債務の危機
 「リーマン・ショック後でも、アメリカでは、国内利益のほぼ3割を金融ビジネスが稼ぎだしている。この点は、日本の企業にも妥当する。… 新聞は、『金融事業を展開する主力企業40社では、11年度の営業利益に占める金融の比率が27%に達した』と報道している(2012年9月)。トヨタ自動車の場合、営業利益全体に占める自動車ローンなどの金融事業からの利益が86%にも達している。」
 「第二次大戦後の各国では、アメリカを例外として、軍事予算の拡大が国債の累積をもたらしたのではない。日本の場合には、経済成長を最優先させ、大型公共事業予算を国債発行に求めたことなどが国債残高を膨張させた主要な要因となった。さらに、1990年代半ば以降の短期間での異常な国債の累積は、バブル崩壊後不良債権を抱えた銀行救済のための大規模な公的資金の投入であり、また大型予算を組んだ景気対策・大型公共事業が行われたことである。これは、リーマン・ショック後の各国政府の先行事例となり、欧米諸国は、急速に国債を累積しはじめた。」
 「民営化を契機として、自国の政策の決定権が、多国籍企業の資本の論理によって制限されるような事態が訪れている、といえる。」
 「現代の金融機関と大口投資家は、バブルの膨張と崩壊のプロセスのなかで、巨額の売買差益を追求し、実現する。かりに、予測を誤り、投資に失敗し、自ら経営破綻の危機に陥ったときは、『大きすぎてつぶせない』、つまり破綻したら経済自体が大混乱になると主張し、政府から巨額の公的資金と各種の支援策を引き出してきた。」
 「ジャック・アタリは、『過剰な公的債務に対する解決策は、これまで八つ存在する。そして現在も、その八つが存在する。増税、歳出削減、経済成長、低金利、インフレ、戦争、外資導入、デフォルトである。これらの戦略のなかで、インフレは頻繁に利用される。』と指摘する。インフレを利用して公的債務の負担を軽減させようとする『解決策』は、ゼロ金利・量的金融緩和といった超金融緩和策を強引に推進する現代日本にその典型的な姿をみることができる。世界大戦下のドイツや日本の過剰な政府債務は、終戦直後のハイパーインフレ(日本では300倍に暴騰)によって、債務負担を事実上激減させるやり方で『解決』されたが、国民の生活は破壊された。」
 「ジャック・アタリは、『1800年から2009年までに、対外デフォルトは250回、国内デフォルトは68回起こっている』と指摘する。」

 第5章:1億総債務者と債務大国からの脱却
 「21世紀初頭の日本の政府債務残高は、自国の経済規模の2倍を超え、主要国の中でも最悪の政府債務大国に転落している。どのようにしてこの莫大な政府債務を償還するのか、私たちはのっぴきならない課題に直面している。この課題に応えることは、主権者である私たちがこれからどのような社会を選択するのか、にかかっている。歴史の教訓に照らして、なんとしても回避したいのは、ハイパーインフレと国民への大増税によって、政府債務を償還することである。」と 著者は結論づけています。
 国債とは マルクスが『資本論』Ⅲ巻29章で架空資本の説明例に取り上げているように 実体経済に全く対応していない純粋に架空な貨幣資本です。資本主義の発展は 必ず過剰生産・過剰資本に陥り 恐慌を引き起こし 既存の資本価値を破壊することで 更なる発展の条件を創り出します。第2章で明らかにされたように 世界的にみてGDPの3倍以上にも膨れ上がった金融資産(架空の貨幣資本)は それを破壊する以外に発展の道はないのです。にもかかわらず 政府・日銀は 過剰な金融資本を破滅から守ろうと 更に国債を発行して金融資本の儲け口を創っています。つまり より巨大な破滅を準備していると言えます。いま必要なことは膨大に膨れ上がった架空の貨幣資本(金融資本)を破壊する以外にありません。原発に対する考え方と同じです。原発を再稼働させることは 人類の破滅につながる第二の事故を準備していることになるので 「すべての原発を廃炉に!」が正しいスローガンであるのと同様です。
 



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