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わいわい通信

2014年09月01日

『展望』14号の落合論文を読んで

『展望』14号の落合論文を読んで
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 革共同再建協の機関誌『展望』14号(2014.6発行)に 落合薫君が「安倍政権を99%人民の怒りで包囲しよう」を書いています。先月号で触れた「総会第2報告」は 「大衆政党の形成を目指さねば」とか「3年後のダブル選挙を展望して」と展開していて ブルジョア議会政党の議案とどこが違うのかと疑問に思いましたが それに比して落合論文は 「戦後民主主義の終焉」とか「リベラルや保守との連携論批判」など、あるいは「現代革命の主体を…できるかぎり階級規定を明かにすべき」と 革命党としての立場から展開していると思います。しかし 現代帝国主義の基軸的動向(生産から金融への転換)がそれとして押さえられていないために 説明不十分とのそしりを免れません。
 最初に 紹介のために 章の見出しを書き出します。
 はじめに 第1章・安倍政権への根底的怒りを 安倍と安倍政権への怒りを/新自由主義の「再稼動」を目ざす政権/第2次安倍政権とは? 第2章・改憲と消費税率アップ 改憲攻撃の目玉=集団的自衛権論/集団的自衛権論議の現状破壊性/消費税率アップの破壊性 第3章・「戦後レジームからの脱却論」批判 安倍政権の性格規定/安倍政権の対外危機性/安倍は極右、しかり、しかし… 第4章・戦後民主主義を超えて 戦後民主主義の終焉/戦後民主主義の弱点 第5章・安倍政権打倒の主体と陣形 リベラルや保守との連携論批判/リベラルの社会的基盤の消失/99%の核の形成

 第3章で筆者は 「戦後の時代区分は、政治的・経済的観点、対外・対内的観点からより精密化すべきと考える」として 5期に区分しています。「1.GHQ占領期(1945~1952)-戦後革命期を経て占領終了まで 2.高度成長期(1952~1973)-GDP10%以上成長し経済大国に 3.中間的困難期(1973~1991)-対米矛盾、円高不況、ソ連崩壊 4.冷戦終了以降期(1991~2008)- バブルから経済的停滞に 5.内外危機の時期(2008~現在)-リーマン・ショック以降の世界」
 73年~91年を「中間的困難期」としていますが 中間とは何と何の中間なのか、歴史と考えれば何から何への中間なのか また困難とは誰にとっての、何についての困難なのか さっぱり解りません。こんな意味不明な命名はないと思います。
 この区分には 74、5年恐慌がでてきません。74、5年恐慌は 戦後復興、つまり生産を軸とした帝国主義的復活が世界的に過剰生産(過剰資本)の壁にぶつかり 引き起こされたものです。74、5年は 恐慌ではなくオイル・ショックだという説がありますが 恐慌による産業・経済の全面的な破局を、基本エネルギーである石油の価格を政策的(経済外的)に倍にしてインフレーションを引き起こすことで回避した というのが真相です。そして、だから 74、5年を転機にして 帝国主義は金融を基軸とする帝国主義に転換していくのです。だが 87年ブラック・マンデー(日本では91年バブル崩壊)が引き起こされました。再び過剰資本の壁にぶつかったのです。以降 金融・金融資本が基軸となった帝国主義は 過剰資本・過剰生産の壁にぶつかる度に 国債発行による金融機関への公的資金の注入で 危機の恐慌的爆発を防いできたのです(論理は14年7月号の「評論」に展開)。だがそれは 恐慌の先延ばしであり 恐慌によって過剰資本が整理・破壊され景気循環が再開されるという資本主義の「ダイナミズム」(?)を否定することであり 長期の不況・停滞が引き起こされたのです。
 筆者は「政治的・経済的観点、対外・対内的観点からより精密化すべきと考える」としていますが 下部構造と言われる資本主義経済の基本動向を第一に押さえない限り 政治的、対外・対内的動向(つまり上部構造)を分析する視点すら持てないと思います。ポイントは 金融資本、『資本論』的に言えばⅢ巻で展開されている「利子生み資本=貸付貨幣資本」です。だがこの論文には 金融資本という言葉は一度も出てきません。
 また第3章で筆者は 安倍と安倍政権を規定して「極右の安倍が新自由主義を『再稼動』する羽目になり、『対米従属派』の安倍が対米関係の危機を高めざるをえないのである。安倍の『戦後レジームからの脱却』論は、ぎりぎりまで対米依存でいくが、一定の限度を超えれば対米対抗もいとわない。」と述べています。
 安倍の改憲策動を例にとると 全面的明文改憲(自民党改憲草案)→96条先行明文改憲→9条の解釈改憲→集団的自衛権容認の閣議決定と 表面的には「トーンダウン」していっています。この表面的「トーンダウン」は アメリカの改憲反対圧力によって生じたのです。靖国参拝も同様です。アジア諸国の非難・批判だけでは 安倍は参拝を強行したと思います。もちろんアメリカは 自衛隊を米軍の盾として使いたいため一方で参戦をけしかけていますが 他方で日本が独自の軍事大国・戦争国家に向かうことは絶対阻止するを基本としています。つまり 安倍と安倍政権は 本質的には極右・対米自立派であるが、現実的には政権を維持し続けるために対米従属でいかねばならないとしています。強引な辺野古新基地建設は 米国の信認を取り戻すべく強行しているのです。日帝・ブルジョアジーが安倍を再び担ぎ出したのは 帝国主義の発展が行き詰まり、帝国主義同士の潰しあい時代への突入が現実味をおびてきたからです。もちろん ブルジョアジーは 安倍の対中韓対決あおりには苦虫を潰していますが。
 ついでに言えば 安倍の戦争国家化攻撃への批判の一つとして「このままいけば徴兵制がひかれ、若者が戦場に送られる」という論がありますが 民衆に武器を配るような徴兵制をとることはありえません。この論は 戦前のイメージで現在を見ている、つまり現在を現在として見ていないということです。現在若者は 「ブラック企業」「ブラック・バイト」といわれるように非正規職のフリーターや派遣しかなく、貧困・格差の中に落し込められています。米軍が市民権を餌にしているように 自衛隊は「正規職」や「奨学金」を餌に若者を集めるでしょう。つまり自衛隊は 庸兵制のままで若者を集め、戦場に送ろうとするのです。
 第4章で筆者は 戦後民主主義と天皇制との関係を「共犯性」と正しく押さえていますが 天皇制そのものが対象化できていないために 展開は部分的で曖昧で、断定はしても何故なのかその根拠が説明されていません。
 そもそも天皇とは アジア的生産様式の王であり 封建制でも領主・大名の上に立ち彼らに位階(爵位)を与える王の位置(ヨーロッパではローマ法王)を維持してきました。だが 王や法王は 支配者であっても支配階級内および民衆支配の実体である武力をもっていません。だから天皇は 常に、その時その時で最も強いと思われる武家・武士を味方に引き込むことを第一としてきたのです。敗戦によって皇軍を失った天皇がとった道は 米軍と組むことでした。それは 戦後日本を支配しようとしていた米軍にとっても好都合なことでした。それが ミズリー号上でのマッカーサーとのツーショットであり、天皇メッセージによる沖縄の売り渡しです。つまり 戦後の日本の体制は 天皇と米軍との合体による支配が基軸なのです。その民衆への登場の仕方が憲法・戦後民主主義(象徴天皇制+国民主権、戦争放棄+日米安保体制)ということなのです。この間天皇が安倍政権に不快感を示すのも 安倍の中に対米対抗性を見てとっているからです。

 第5章の「99%の核の形成」で 筆者は「99%とは平板なものであってはならないし、認知労働者が中軸となるべきものでもない。… 階級と階級編成自体が解体し、再編過程にはいっているときに、物的生産手段の所有関係だけで現代革命の主体を見るのは間違っている。しかしできるかぎり階級規定を明らかにすべきと考える。その点から日本の現実をつぎのように見る。」と述べて 99%の核=「自己解放の主体」として 中小零細企業の労働者、非正規雇用の労働者、零細企業の経営者、家族経営の商工業者、農民・漁民などの零細な自営業者、社会保障の改悪で打撃を受ける階級・階層、福島などの被災者、沖縄人民、被差別部落民、在日・滞日人民、「障害者」、女性と列挙しています。
 これだけ数多く列挙すれば 「99%とどこが違うの」とか「まだ抜けている人たちがいるのでは」と突っ込みたくなります。よく見ると 大企業の正規職労働者は「自己解放の主体」には入っていないのです。大企業の正規職労働者でも 製造ラインの監視などに当たっている人もいます。また JRや私鉄の運転手はほとんどが正規職です。この人たちは自己解放の主体には入らないのですか。つまりこの論文には 自己解放の主体と見る見ないの判断基準が示されていないのです。これでは 「筆者の勝手な断定でしょう」という批判は正しいことになるし 皆のこの問題を考える基準をどこに置いたらいいのかの回答にもなっていません。
 これまで 生産手段の所有の有無で階級を規定してきました。『資本論』Ⅲ巻でマルクスは 利潤の利子と企業者利得への分裂を示し 資本所有名義(利子・配当取得の口実、つまり利子生み資本=金融資本)は生産の外にあって生産にとってまったく必要がないだけでなく、最後は生産そのものを破壊することを明らかにしています。金融・金融資本が軸になった帝国主義への発展・転化は 金融資本の増大にともなって増加する利子・配当を引き出すために、生産性を極限的に高め搾取率の途方もない増大をもたらしています。同時に 雇われ社長のように自らの「給与」が自らの労働をこえて、搾取した利潤(剰余価値・企業者利得)から払われている人も増えてきています。だから 生産手段の所有の有無で階級を規定することには無理があるとの考えが広がっているのだと思います。しかし客体的に展開された階級規定を主体から言い直すと 自らの労働を収入源としているか、それとも他人の労働を搾取し収奪すること、あるいはその分配にあずかることで収入を得ているかとなります。99%と1%の区別はここにあるのです。ネットでの株式などの個人投資(投機)を主な収入源としている人たちは 99%から除外しなければなりません。平たく言えば 昔から言われていた未来社会の原則「働かざるもの食うべからず」(労働が可能な人は)です。しかも未来社会では 労働している人は 共有ではありますが生産手段を所有することになります(労働=生産者に転化)。資本主義での自作農や自営業者と同じ階級規定です。だからマルクスの階級規定は今も正しいのです。マルクスの階級規定は間違っているとか現代には妥当しないと考えている人(例えばネグリなど)は 未来社会では階級規定が変わることを理解せず マルクスの理論を社会民主主義的に歪曲して理解しているのだと思います。『資本論』や『フランスの内乱』『ゴータ綱領批判』など革命後を見据えた晩期マルクスの理論を 『共産党宣言』などの初期マルクスの言葉で否定・無視しているのだと思います。マルクスの精神は初期も晩期も同じですが 論理・展開は革命に向かって深化していっています。
 革命を規定するためには客体的な階級規定を基準にしなければなりませんが 未来に向かう革命の主体は主体から言い替えた階級規定から考えねばならないのです。革命の階級規定と革命の主体とは合同≡ではありません。つまり革命の主体は 自らの労働のみを収入源としているかです。それに 今の(資本主義)社会は変革しなければならないと考えているかがプラスされます。「99%」と規定することは 筆者が言うように「平板」であって 何が基準かと考える道を塞ぐことになります。また 大企業の正規職労働者が階級性を失い資本=企業にしがみつくのは 金融・金融資本を軸とした帝国主義になり、格差・貧困が作り出されているため 労賃や労働条件の既得権を放棄したくないからです。「認知労働[知識労働]も価値を作っている」という見解がありますが お金はいくらあっても食べることも着ることもできません。現物生産が人間を、社会を維持しているのです。この見解は 認知労働で得られる「給料」は搾取(剰余価値)の分配にすぎないことを否定するもので 金融・金融資本が軸になった帝国主義の下での資本・搾取の擁護論になってしまいます。
 第4章で筆者は 都知事選に関連して「保守リベラルとの連携論」を批判しています。批判は正しいですが 細川・小泉は 後発(新興)ブルジョアジーの先発(既得権)ブルジョアジーへの挑戦を代理しているという階級的視点が押さえられていないと思います。選挙そのものについては 先月号で述べました。


2014年下期景気動向分析
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 はじめに
 安倍首相は7月25日から8月2日にかけ中南米5ヶ国(メキシコ、トリニダード・トバゴ、コロンビア、チリ、ブラジル)を榊原経団連会長などの経済人を伴って訪問した。首相は今回のブラジルで2012年12月の就任以来、計47ヶ国を訪れたことになる。就任1年足らずで東南アジア諸国連合全10ヶ国を訪問。トルコを2回訪れるなど積極性が感じられるが、輸出国別では第1位、第3位の中国、韓国は訪問するどころか首脳会談さえままならず、経済外交を積極的に推し進めているように見えるが、国内と同じように自分と馬が合う人とは付き合うが嫌いな人は徹底的に避けるようである。…… 安倍首相が2回も訪れたトルコのエルドラン首相(今回大統領に選出された)とはその強引な政治的手法においても共通点は多い。トルコは近隣三国(エジプト、シリア、イスラエル)との関係がうまくいってないのも安倍首相と似通っている。エルドランの高支持率は、11年に及ぶ首相の在位期間に高めの成長を実際に維持してきたからに他ならない。ではわが安倍首相はどうなのか。そういうわけで今回もアベノミクスの検討会。

1 アベノミクス・バブル崩壊へ
 アベノミクスのイメージ戦略
 アベノミクスの第一の矢でデフレ脱却は見えたし、次は成長戦略だなどと語られることが多いが、まずこの点を検証しておこう。
 このテーマについては過去何回も取り上げてきたが、もう一度簡単に整理しておく。量的緩和策を主張するエコノミスト(以下リフレ派)の論理を要約すれば、現在の低成長はデフレが原因だからデフレを解消すれば解決する。デフレは貨幣的現象だから貨幣の供給を増やせば解消するという。しかしそれは因果関係ではなく相関関係だ。現に今まで相当期間緩和したのに少しも効果がないではないか。経済は自然科学と違って実験できないというが、この間の緩和政策は実験をやったようなものではないか。そして最も重要なことは量的緩和によって実体経済を刺激するメカニズムが解らない。これに対してリフレ派の反論は「今までは戦力の逐次投入だ…」(黒田日銀総裁)、今回は異次元緩和だ。では実際にどうなっているかというと実は物価が上がっている。日銀の目標とする2%にはまだ遠いが、2014年2月で対前年度比、総合で1.5%、コアで0.7%上昇している。原因は二つある。①第一の矢による円安による物価上昇 ②第二の矢による公共事業の増加による資材の高騰、人手不足による工賃の上昇。①についての物価上昇分は 海外に移転している(交易条件の悪化)のでGDPの増加にはならない。全く余計な物価上昇である。②についてはこれを糸口に全体に賃金の上昇につながるのかどうか、以下検証していこう。

 賃金所得は増えたのか
 7月31日に公表された毎月勤労統計調査6月分速報によると所定内給与(残業代等を含まず)は前年同月比0.3%、きまって支給する給与(残業代等の超過勤務手当を含む)は0.4%、現金給与総額(きまって支給する給与+特別に支払われた給与等の合計で所得税、社会保険料、組合費を引く前の総額)も0.4%とわずかながら増加したが、実質賃金は消費税の引き上げもあって6月は3.8%の減となった、しかも12ヶ月連続である。次頁の表に注目してほしい。規模の大きさで格差が大きいのが読み取れる。区分が全体と30人以上という二つしかないが、これを5人から29人、30人から99人、100人から999人、1000人以上という区分で調べたら相当の格差があるだろうと推測される。もともと大企業と中小零細企業とでは格差があるのに、さらに格差が広がっている。これならデフレの方がよかったという悲鳴が聞こえてきそうである。なお、「決まって支給する給与」(定期給与)というのは労働契約、団体協約あるいは事業所の給与規制等によってあらかじめ定められている支給条件、算定方法に依って支給される給与のことであって、所定外労働給与を含む。毎月同じ額がもらえるのではない。勘違いしやすい用語なので念のため付け加えておく。もうひとこと、インフレのときにはGDPの伸びは名目ではなく実質で、デフレ時には実質ではなく名目でみたほうが景気の動向がよくわかったように、賃金デフレの時には「きまって支給する給与」より「所定内給与」に注視したほうがよい。
 [図表 省略:実質賃金指数] 

 人手不足は本当か
 日本経済新聞(2014.6.28)に
  「人手不足、好況で浮き彫り 5月有効求人倍率1.09倍
   景気の回復に伴い、働き手の不足感が強まっている。厚生労働省が27日発表した  5月の有効求人倍率(季節調整値)は1.09倍と前月より0.01ポイント上がり、  1992年6月以来の高い水準になった。地方では15~64歳の生産年齢人口が減  り続けている。不況が続いていたときには目立たなかった問題が、好況下で浮き彫り  になった形だ。
   有効求人倍率は職を探す人1人に対し、企業から何件の求人があるかを示す。求人  数が変わらなくても求職者の数が減れば、倍率は高くなる。」
 一倍を越すと仕事が見つけやすいように見えるが、パートタイムを含めた求人で一倍を越しているが、正社員に限れば0.63という厳しい状態が続いている。なお、正社員の区分を設けたのは比較的新しくて04年の11月からである。ちなみに、今までの最高は06年の0.68、最低は09年6、7月の0.24である。
 [図表 省略:有効求人倍率] 

2 GPIF
 株価対策としての運用見直し
 GPIFとは、Government Pension Investment Fundの略称で日本語での正式な名称は「年金積立金管理運用独立行政法人」で、厚生年金と国民年金の管理運用業務を行う機関である。現在の運用資金は126兆円と年金の運用機関としては世界最大である。最近この機関のことが話題になったのは運用資金の割合を変更しようとしていたことだが、10日付の日経新聞によると8月5日に変更されたとのことである。
  「公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、国内株式の  保有上限を撤廃したことが分かった。5日に開いたGPIFの運用委員会で決めた。  約130兆円ある全資産の18%までと定めていた上限を超えても買い増せるように  なる。9月に新たな資産割合を決めるまでの暫定措置で、9月以降は国内株式の割合  を20%台に増やす。
   国内株式の運用比率を1ポイント増やせば1兆円強の買いが発生する。仮に3月末  実績の16%から20%に高めると、約5兆円の買いに相当する。上限の撤廃により、  より円滑に目標に近づけられる。
   GPIFはあらかじめ『資産構成割合の目安』を決めて、運用している。ただ、相  場の急変などに備え、一定の幅の範囲内で、目安から離れることも認めていた。
   例えば、国内株式の場合、目安は12%だが、上下に6%分の幅を認め、保有割合  が6~18%ならば許容している。ただ18%を超えて買い増すことはできなかった。
   5日の運用委員会では、海外株式や国内・海外債券のいずれについても上限と下限  を9月まで取り払うことを決めた。
   国内債券については現在の60%から40%台に大幅に落とす方針だ。今の仕組み  では最低でも52%持つ必要があった。下限をなくせば、国債も売りやすくなる。」
 現在の資産構成割合(ポートフォリオ)は、国内債券67%(乖離許容幅±8%)、国内株式11%(±6%)、外国債券8%(±5%)、外国株式9%(±5%)、短期資産5%と定められている。最後の短期資産については、当面の支払い準備金としてこのくらい必要ということで乖離幅は設けられていない。

 安倍の意向に沿う運用委員の人選
 今回の理事長、運営委員の人事も日本株の運用枠の拡大に賛成か反対かで決めた。安定運用を主張する委員は排除された。…[省略]

 株式運用で高いリターンが保障されるのか
 まず東証(東京証券取引所)が最近実施した二つの売買単位の制度変更について紹介しておく。取引単位は、1000株、100株、1株など8種類があった。…… 14年4月から100株単位と1000株単位に集約することに決めたので、7月1日現在では100株単位の会社の比率が68%になった。100株単位の上場企業2万2234社のうち96%は、50万円未満で買えるようになった。これはずばりNISA(少額投資非課税制度)対応なのである。…… もう一つは7月22日から実施された売買金額の単位の変更である。これまでは最低が1円であったが80銘柄について10銭刻みと50銭刻みに変更された。これはミリ(1000分の1)秒単位で売買注文を出すHFT(High Frequency Trading超高速・高頻度取引)などを手掛けるヘッジファンドに対応したものである。なにしろこの「高速自動取引」が東証の売買代金の3割も占めるということです。…[省略]
 ゴミ投資家と自ら称する個人投資家は株の下落局面で割安だと判断したら買いに入る場合が多い。加熱局面では全ての株式を売り払い手仕舞いすることも可能である。機関投資家はそうはいかない。特に年金ファンドはその性格上長期保有が基本である。これ以上持ち高を増やせばヘッジファンドのカモになるだけ。NISAも基本的には初心者向けで、投資信託など買ったら買付手数料とか維持費とかで利益は金融機関に行ってしまう。GPIFも株式の運用比率を上げれば運用手数料が増える証券関連の金融機関が潤うだけ。買方が多く売方が少ないと株は上がるが、取引が成立すれば売方と買方が入れ替わるだけで売買高が多いからといって企業の価値が変わるわけではない。そのうちリーズナブルな価格に落ち着く。ただし最初の上げがきついとオーバーシュートして本来落ち着く価格以上に下がる。…… 株価が下がるとき安倍内閣支持率も急速に下がる。我らの年金をおもちゃにするな。
 GPIFの問題を詳しく知りたい方は小幡績『GPIF 世界最大の機関投資家』東洋経済新報社をご参照ください。その中から格言めいたところを一つ取り上げます。
  「投資とは変化に賭けるものです。そして、運用は変化に備えるものです。…では『  有識者会合』などが、国債を大きく減らして日本株を大きく買え、といっているのは  正しいのではないのか?そう思われるかもしれません。半分正しいです。しかし、投  資の世界では、半分正しいことは、100%誤りよりも危険なのです。」(p112-113)

 「アベアベ詐欺」
 日本経済新聞朝刊(14.7.28)に
  「日本経済新聞社とテレビ東京による25~27日の世論調査で、安倍内閣の支持率  が6月の前回調査より5ポイント下がって48%となり、12年12月の第2次安倍  内閣発足後、初めて50%を割り最低となった。不支持率は2ポイント上昇し38%  と最も高くなった。
   20~30歳代では集団的自衛権の行使容認について「評価しない」が6割近くに  達している。40歳代は安倍政権の経済政策を「評価する」「評価しない」が拮抗し、  ほかの世代に比べて見方が厳しい。こうしたことが内閣支持率の低下に影響している  とみられる。
   現在、すべて停止している国内の原子力発電所の再稼働を巡っては、16日に九州  電力川内原発(鹿児島県)が政府の原子力規制委員会の安全審査に合格し、10月に  も運転を再開する見通しとなった。安全の確保を前提に再稼働を進める政府の方針に  ついて賛成が35%、反対は52%だった。
   安倍政権が進めている経済政策について、「評価する」は44%で「評価しない」  の37%を上回った。」
 ここからわかることは
① 内閣支持率は下がっているが不支持より支持の方がまだ多い
② 集団的自衛権の行使容認については賛成より反対の方が多い
③ 原子力発電所の再稼働については反対の方が多い
④ 経済政策について評価するが評価しないより多い
 これらの4点から筆者は以下のように推論する。内閣支持率が下がったのは②③の要因が大きい、しかし不支持より支持の方がまだ10%も多いのは経済政策で何とかよくなるのではないかと期待している面があるからである。…… 安倍内閣は麻生財務大臣も含めて手法は詐欺である。②については国民投票をやらないと成立しないようなことを閣議決定でやるのだから見え見えの詐欺である。④については国民の暮らし向きをよくする、例えば経済格差を少なくするというのは政権が決断すればできるが、成長率を高めるというような政策は簡単にできるものではない。ここのところをよく理解している人は、安倍晋三本人も含めて少ないので安倍内閣になってなんとなくよくなったということで支持しているだけなので、株が下がれば終わりなのである。物の価格は何で決まるか、需要と供給で決まる。それならGPIFが株を買い増せば株が上がる。内閣支持率もあがる。息子や孫を騙って老人から金を巻き上げるオレオレ詐欺というのがある。安倍内閣の詐欺は政治的詐欺(集団的自衛権の閣議決定)、経済的詐欺(アベノミクス全般)のダブル詐欺なので、今後「アベアベ詐欺」と呼ぼう。

3 アベノミクスの持続可能性の検討
 企業の債務削減
 1980年代後半に企業は大規模な設備投資を行った。しかしバブル崩壊を受けて企業は事業を拡大するのではなくひたすら借金の返済に回った。資産が購入時の数分の一に下がったのに借金はそのままなので債務超過に陥ったからである。いわゆるバランスシート調整に邁進したのである。この調整の間、民間の設備投資が落ち込むのでそれを補う形で政府が需要を作り出すことで経済全体の失速を防ぐ。バランスシート調整を発見したというリチャード・クーによると2006年まで続いた。…[省略]
 筆者の言いたいことは、このころまでには不良債権処理はかなり進んで、積極的に投資を拡大する財務的基盤ができたのではないかということである。資料的裏付けとしては、東京証券取引所のPER・PBR長期データ/一部上場企業単純総合でみると、一株当たりの利益が1999年6月から2005年の5月までマイナスになっている。これはちょうどその期間赤字であったということではなく、3月決算の会社が多いのでその決算発表が6月に行われるので全体の平均としてちょうど一年間赤字決算になった、つまりこの期間に不良債権処理が進んだということが見て取れる。次の波は2002年6月から翌2003年の5月までマイナスが続く。不良債権処理が進んでいなかった企業も遅くともこの時期には終了したといえる。実はもう一回波がくる。2009年6月から2010年の5月であるが、これはリーマン・ショックの後始末である。
 リチャード・クーの話に戻るが、バランスシート調整が進んでいない間は企業が投資を控えるので、その間は政府が支出を増やさないとそれこそデフレスパイラルに落ち込んでしまうという伝統的ケインジアンの政策提言を続けてきた。それゆえ、金融の異次元緩和でデフレが解消するというリフレ派とは対極にあるとはいえる。2006年までバランスシート調整が続いたかどうかは別として、現段階で公共投資の拡大でGDPを増やすという政策がその持続可能性という点で疑問符がついている。
 よく言われるのに日本は(a)家計貯蓄が1500兆円あるから財政赤字が多いけど(b)ギリシャのようにはならない。(b)については、一応正しい。(a)については間違いとは言わないが正しくない。経済学的にいうと正確さに欠けるということである。家計貯蓄が1500兆円あってもこのままの状態で行けば(c)いずれ破綻する。まず、国内にある金融資産の合計(2013年度末)は、実に6913兆円ある。では金融負債はいくらあると思いますか、6913兆円ある。つまり金融資産の合計額と金融負債の合計額は恒に等しい。… 株式は企業の負債と統計上は処理する。株価が上昇したら負債が増えたと計算する。部門別に分けていくと、マネーを仲介する金融機関の資産、負債の額が一番多い。家計資産残高(ストック)は1630兆円ある。つまり、昔から積み重ねてきた残高である。家計の貯蓄があったので破綻しなかったとはいえる。つまり過去形の話である。それから注意しないといけないのは、国債等998兆円のうち家計が直接所有するのは21兆円に過ぎない(図表参照)。圧倒的に多いのは金融機関なのである。しかも中央銀行(日銀)分の増加が異常に多い。2011年第4四半期から2014年第1四半期までの増加分78兆円を越えて109兆円も買い増ししている。これからどうなるかというのはフローの概念とストックの概念をきちんと分けて考えないといけない。それとネットとグロスの区別と連関をきっちりしないといけない。…[省略]
 資本主義社会というのは、あえていえば自己資本だけでなく借り入れ(レバレッジ)によって拡大再生産するというのに適したシステムであった。しかし企業が借金を減らしていったらどうなるのか。企業の純資産がプラスになったら誰が利子の負担をするのか政府か、それでは資本主義とはいえない。

 過剰資本、過剰生産
 金融緩和により実質金利を下げて投資を拡大するという触れ込みであるが、少なくとも量的拡大の設備投資は期待できない。金融緩和による投資拡大という経路はあり得ない。投資するにしても極力自己資本でやろうとしている。借り入れに頼ると、80年代末のバブル崩壊を経験していない人でも、リーマン・ショックのような事態になるとそれこそ大変な事態になることが経営者の頭に染みこんでいる。…[省略]
 筆者が強調したいのは次のことである。
 日本だけでなく世界的に見ても、先進国においては設備投資の拡大は手控えられている。中国においても先のリーマン・ショック後の大型設備投資によって過剰生産にもがいている。過剰資本・過剰生産とひとくくりでいう場合が多いが、これは分けて考えなければならない。過剰資本であろうと設備投資しなければ過剰生産にはらならい。だから過剰資本の大きな使い道は企業買収である。金額が大きいだけに、低金利はこれを促進する。しかし、これはオーナーチェンジなので物は動かない。むしろ同業で国内同士の場合には合計規模は縮小する(リストラが行われる)場合が多い。松下電器(現パナソニック)と三洋電機、トステム(現LIXIL)と新日軽などがあげられる。そのLIXILが13年に衛生陶器では北米市場でトップシェアのアメリカンスタンダードを約530億円(負債を含む)で買収している。今年に入って欧州最大の水栓金具メーカーGROHEを3816億円(負債を含む)で買収している(LIXIL持分43.8%)。ローソンの新浪剛史会長が、次期社長に転じるとして話題になったサントリー・ホールディングスも企業買収を積極的にやっている。1月13日、ジムビームなど世界的ブランドを持つスピリッツメーカーである米ビーム社を160億ドル(約1兆6500億円)で買収すると発表した。こういった買収も投資であるが、これで儲けるのは仲介する金融機関だけなので波及効果は少ない。しかし、海外との取引では技術移転とかあってなにがしかの効果はあるとはいえる。…… しかし、最近流行っているのは設備投資や企業買収するのではなく、自社株買いのために社債を発行(リキャップCB)していることです。株式会社が、株主への利益還元やストックオプション(従業員持ち株制度)等に利用するために行う。自社株を買い入れて償却することで、利益の絶対額が変わらなくても一株当たりの資産価値やROE(自己資本利益率)が向上する。売買を繰り返す投資家にとっては美味しい話だが、長期投資家にとっては何のメリットもない。
 要は 成長が見込める分野がない。拡大再生産ができない。結論から言えば異次元緩和をしようが、円安になり株が多少あがったとしても実物経済の動きを促進するという方向には向いていない。金融的取引が活発になっているだけである。
 [図表 省略:国債等の保有者内訳]

4 最後はどうなる
 マネタイゼーション
 「マネタイゼーション」とは、一般的には政府の発行した国債等を中央銀行が直接引き受けることをいう。「借金を通貨に替える」という意味で「マネタイゼーション」という。
 現在日本においても、「国債の市中消化の原則」と呼ばれるものがあり、国債のマネタイゼーションと見なされる恐れのある日本銀行における国債引き受けは、財政法第5条によって原則として禁止されている。しかし、いったん市場に出たものを買い入れるといってもその7割を引き受けというのは金融調整の域を越え、実質上のマネタイゼーションといわざるをえない。それゆえアベノミクスのエンジンは第二の矢の公共事業で、第一の矢の異次元の金融緩和は側面支援に過ぎないといえる。
 ただ、すぐにでもハイパーインフレーションになるかというとそうはならない。1920年代のドイツのハイパーインフレーション、第二次大戦後の日本の例でもわかるように敗戦後に物の不足している時に通貨供給量を増やしたからインフレになったので、今と条件が違う。日銀の黒田総裁が2年で2%の物価上昇といっているが、それが本当に実現すれば長期金利は少なくとも3%ぐらいになるので、国債の増発にブレーキをかけざるを得ない。しかし大多数のエコノミストはそうはならないとみている。実際にそうなったとき、政府が節度を失い、成長すれば税収増で借金は返せると大盤振る舞いを始めると危険領域に入っていく。
 乾いた薪が積みあがっていても、何かきっかけがないと火はつかない。その段階で安倍政権が続いていれば、いずれ「有事」を発生させる。そうすると日本国債の売り、株の売りが一斉に始まる。日本の国民にそんな覚悟はできていないし、海外の投資家もそう見ているからである。しかし日本の経済規模からいって国内的に収まる話ではない。世界恐慌の扉をこじ開けるのは必至である。

5 終わりに
 病院にいくと必ず血圧の測定をされるというより、筆者の行っている病院では通路に測定器が置いてあって自分で測って印刷された紙を受付に渡すのですが、体温は必ずしも測らない。熱があれば人間は自分でわかるので熱があるなと感じたときに測ればよいので、これは合理的だと思う。入院すると…血圧は必ずしも毎日測らない…。しかし、体温は必ず測る。…… 実務的にはバイタルサイン(Vital Signs 生きている証し)としてカルテに記入することが定められている。かなり前置きが長くなりましたが、これを経済の指標に置き換えますと、体温に当たるのが金利、短期金利は中央銀行が操作できることになっているので操作されにくい長期金利、10年物の国債の金利がこれにあたる。年初は0.6%だった長期金利は、一旦0.5%まで落ち込んだ。債券価格は上昇。8月12日の利回り(終値)は、0.505%(334回債、表面利率0.6%)。この水準は、資本主義の終焉のサインだ。
 血圧にあたるのが日経平均株価。ただし株価そのものではなくPER(株価収益率)を見なくてはいけない。年末までに17,000円台に行くとかいうアナリストがいるが、一時的に需給関係で上昇しても利益の増加のない株価はまた元に戻る。PERとは株価を一株当たりの利益で割ったものだ。利率にすると14倍は(1÷14)×100なので7.1%、15倍は6%になる。個別銘柄では、武田薬品工業のように42.89倍、三菱商事の8.64倍(いずれも8月14日10:15)のように高いのやら低いのがあるが、平均で15倍台を超すと高値つかみになるので取引高が減少してくる。日経平均構成銘柄(225社)で一時15倍台まで上がっていたが、8月13日の終値で14.67倍。東証一部全銘柄(1667社)で15.57倍、二部(494社)で 15.57倍である。ちなみに、日経平均株価が過去最高値38,915円を付けた1989年の大納会の時の東証一部全銘柄(1164社)平均PERは70.6である。日経平均構成銘柄と構成銘柄が違うので単純な比較はできないが高すぎたといえる。血圧でいうと200は楽に超えている。そして身長に当たるのがGDPである。8月13日内閣府が発表した4~6月期四半期別GDP速報(1次速報値)によると、成長率(季節調整済み前期比)が実質▲1.7%(年率▲6.8%)、名目▲0.1%(年率▲0.4%)となった。前期分は名目値に消費税分が5%、当期分は8%含まれるので、実質で見ないといけない。見込みより多少多いのではないか。駆け込み需要の反動で落ち込むことは初めから予測されたことだ。問題は消費税増税による実質賃金の低下の影響が現れているのかどうかである。次回7~9の発表は11月17日である。これにより来年10月から消費税を10%に上げるかどうかを決定するのでご注目ください。経済のバイタルサイン新発10年物国債の利回りも時々見てください。そして最後に、健康管理の重要な指標体重についてみておこう。BMI(Body Mass Index) が肥満度の代替指数として使われる。体重WKgを身長Tmで2回割る。…… 国の借金を体重に例えるなら、身長はGDPになる。通常、国の借金(体重)をGDP(身長)で割った率(%)であらわす。今現在200%ぐらいになる。借金の定義の仕方(どこまで含めるか)によって異なるのでぐらいとしたが、IMFの定義では230%ぐらいになる。どこまで行けばダメかという基準はないが、数値が大きくなるほど危なくなるとしか今の段階ではいえない。
 アベノミクスの最大の課題は体重(借金)を減らすのではなく身長(GDP)を増やすことにある。なにしろ第三の矢は成長戦略である。主治医としては還暦を過ぎて肥満の人には身長を伸ばすのではなく、体重を減らすことを推奨する。




Posted by わいわい通信 at 00:04│Comments(0)
 
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